トリートメントはドラックストアで1,000円未満で購入できるものからサロン専売などでは5,000円越えるものまで様々です。人それぞれ髪質は違いますし、トリートメントに求めている効果も異なるかと思います。しかし
・美容室でやってもらったトリートメントはとても良い
・美容室で購入したトリートメントはとても良い
と思いませんか?
良いトリートメントの違いってなんだと思いますか?成分?製法?
今回は化粧品開発を行っている化粧品開発者山川雅之に良いトリートメントは何か聞いてみました。
目次
良いトリートメントとはどんなトリートメントですか?
トリートメントの役割を最大限発揮できるものと考えています。
トリートメントの役割は「ダメージの回避」と「ダメージ補修」になります。
トリートメントの役割① ダメージの回避
毛髪のダメージには、シャンプーやコーミング、ブラッシングといった物理的な摩擦ダメージがあり、摩擦により18-メチルエイコサン酸(MEA)の欠損(以下、18-MEA)やキューティクルが剥がれます。トリートメントは、18-MEA欠損の補修や毛髪表面のコーティングの役割をはたしダメージを受けないようにする必要があります。
トリートメントの役割② ダメージの補修
毛髪のダメージには、物理的なダメージの他に化学的なダメージもあります。化学的なダメージは、太陽による紫外線やプールの塩素、海水浴では海水による塩分やpH、ドライヤーやアイロンの熱、毛染め・パーマによるものです。これらのダメージにより、油分の損失やたんぱく質の変質等が起こり、毛髪の空洞化が広がります。トリートメントは、コルテックスやメデュラの空洞部分への油分の充満の役割をはたす必要があります。空洞を満たすことにより毛髪の強度は強くなり、空洞による乱反射が少なくなり髪の艶が良くなります。
キューティクルや18-MEAにはどんな役割がありますか?
毛髪はケラチンを主成分とし、キューティクル(毛小皮)、コルテックス(毛皮質)、メデュラ(毛髄)に分かれた構造をしています。
キューティクルはコルテックスを覆い、毛の表面を占め、魚の鱗のように重なり合っています。毛穴には体内の有害物質や重金属が排出されますが、毛が伸びると同時にキューティクルはそれを毛穴の外側まで運ぶ機能も担っています。
キューティクルの外面には、18-MEAが結合しています。18-MEAのおかげで、毛髪表面は油になじみやすく、水をはじく性質になり、軋みを低減し、クシ通りをよくします。さらに油になじみやすくなっておりますので、毛穴より分泌される皮脂が髪になじみコーティングの役目をして外部の環境の変化や刺激から髪の毛を守れるようになります。
トリートメントの役割が発揮できる・できないの違いは何ですか?
トリートメントに配合している油をいかに毛髪に付着させることができるかではないでしょうか。トリートメントは毛髪につけてなじませた後に洗い流すもので、乳化されたタイプが一般的に使われます。
乳化のタイプによって効果の発揮の仕方が異なることが予想されます。3つの乳化のタイプによる効果の発揮について説明します。
【非イオン界面活性剤による乳化】
トリートメントの乳化は非イオン界面活性剤によるものが最もポピュラーです。非イオン界面活性剤はシャンプーやボディーソープにも助剤程度で使用されていますが、食器用洗剤といった強力な油汚れを落とす製剤などにも主成分として配合されています。つかんだ油をなかなか離さない性質があります。非イオン界面活性剤により乳化されたトリートメントの油は、非イオン界面活性剤で囲われているため図のようなイメージで油分が毛髪に、付着しにくいと考えられます。
非イオン界面活性剤の裏面表記例「ポリオキシエチレン・・・」、「POE・・・」、「・・・グリセリル」、「ポリオキシプロピレン・・・」、「ポリソルベート・・・」、「PPG・・・」
【非イオン界面活性剤を配合しないカチオン乳化】
トリートメントには一般的に4級アンモニウム界面活性剤(カチオン界面活性剤)が配合されております。非イオン界面活性剤が配合されていない製剤は、カチオン界面活性剤が乳化することがあります。18-MEAが欠損した毛髪表面は(−)に帯電しているためカチオン界面活性剤(+)は電気的にその部分に結合し、毛髪表面は疎水性になると考えられます。するとエマルジョンが壊れ、包括されていた油が露出し、油が毛髪表面をコーティングするようになると考えられます。
【レシチン様成分による乳化】
レシチン様の構造を持つ乳化剤(以下、レシチン様乳化剤)で乳化するトリートメントがあったとします。毛髪はもともと細胞であり細胞膜はレシチンなどでできています。したがって髪の中にも膜成分が残っています。レシチン様乳化エマルジョンは膜成分と良く馴染むため頭髪内部にじわーっと入り込んできます。その際に油分や蛋白質も毛髪内部に入り込み、毛髪にハリ、コシ、艶が付与されます。
レシチン様の構造を持つ乳化剤「レシチン」、「セラミド」、「ジラウロイルグルタミン酸リシンNa」 etc...
トリートメントの開発への思い
安全性は大前提として、いいトリートメントとは使用した人に感動を与えるほどその役割が発揮できるものと考えています。油をいかに毛髪に付着させるかを追及した一例として、非イオン界面活性剤を配合しないという手段を挙げています。しかし、非イオン界面活性剤を配合しなければ安定なエマルジョンをつくることが難しく、この問題を解消するにはそれなりのコストがかかります。
もっとわかりやすい例防腐剤(パラベンやフェノキシエタノール等)の皮膚などへの影響を懸念して、皮膚や毛髪に残らないエタノールを防腐目的で配合するということは容易に思いつきます。
しかし、防腐にかかる原料コストは10倍程度に跳ね上がり、製剤も不安定な方向に向かい、安定化のためのコストがかかります。
非イオン界面活性剤や防腐剤やpH緩衝剤等、通常配合されるものが安全・安心のために配合されていない製剤は、実は製造・開発コストがかかっています。しかし、消費者には安心して使える効果の高いモノであるかもしれません。ヘアケア製品について20年ほど前から疑問に思っていることがあります。キロ単価が安すぎます。女性にとって頭髪は肌よりも大事なものであると考えられているといったデータがあるのに女性は髪にはコストをかけません。シャンプー、トリートメントは美容液であってもよいと思います。洗い流しはするもののしっかり考えられた製品は開発者の思いがちゃんと頭髪に残ります。
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